無神経な友人の話。
無神経な人間が嫌いである。
むろん、私も無神経な人間の一人であることは言うまでもない。
しかし、それでも私は無神経な人間が嫌いなのである。
私はとある国公立大学の推薦入試を受けた。
入試の話が来たのは3年生の一学期、六月のことであった。
それまで私は私立大学の指定校推薦を取り、ぬるま湯に浸かった楽な高校生活を謳歌しようと考えていた。
受けるつもりは毛頭なかったのだが、熱心な先生の説得に負け、結局受けることとなった。
受けるからには合格したい。私はそれから死にものぐるいで志願理由書を仕上げ、想定問答集を組み立て、小論文対策などはほぼ寝ないで取り組んだ。
これなら絶対に受かる。周囲の人に何度も何度も言われ続け、どこかで慢心していた部分があったのかもしれない。
しかし結果は不合格であった。
合格者一覧の中に私の番号はなかったのだ。
あれだけ頑張って、毎日毎日寝る間も惜しんで勉強したあの時間が全て無駄になってしまった。
両親に「ごめん、落ちた」と電話を入れると「仕方ないよ。次頑張ろう」と慰めてくれた。
悔しくて、自分が惨めだった。
さて、ここまでが前提である。
その国公立大学には夜間部があり、私の親友もそこに志願した。一緒に合格しようね。どちらかが折れそうになるといつもそう言っていた。友達は「どうせ面接だけだから〜」と対して勉強もしていなかった。
「あ、こいつ落ちるんだろうな。」ほかの人は知らないが、少なくとも私はそう思っていた。
結果、彼女は合格した。
彼女が喜々として「合格したよ!」と私に抱きついて来た時、その時は素直に「良かったじゃん!おめでとう!」と言うことができた。
しかし、その日の昼食時、彼女からこう言われた。
「なんで本気で頑張ってたお前が落ちて、やる気なかった私が受かったんだろ〜〜!!めっちゃウケるわ」
頭が真っ白になった。教室もどこか凍りついた気がした。私は食べていた弁当の味がわからなくなった。
別の友達の「え?」という声、顔が嫌に鮮明に、私の脳にこびりついた。
「は?なんでそんなこと言うの?」その言葉はいつの間にか「だよね〜〜!!!!!」と空回ったハイテンションへと変換されていた。私の口は優秀である。
これを言われたのが木曜日。言われた当初は「合格したのが嬉しくて浮かれているのだろう」そう思っていた。
でもその日の夜、ふと怖くなった。
「教室の友達も、先生も、両親も、親戚も、後輩も、中学の友達もみんなそう思っているんじゃないか」
考えているうちに涙が止まらなくなった。怖い、周囲の目が怖い。泣き疲れているのに眠れない、うとうとしたとしてもすぐに目が覚めてしまう。頭が痛い。目眩もする。気持ち悪い。気持ち悪い。怖い。怖い。消えたい。
次の日、私は学校を欠席した。
友達はそのことを多分気にもとめていないだろう。
私がその友人の無神経な言葉、行動に傷ついたのはこれが初めてではない。体育の時間、私の走るすがたを見て「走る姿勢おかしくない?豚のレースかよ」と言われたり、ニキビ跡を気にしている私に「そのブツブツあれじゃん!ブラマヨの吉田!」などと笑われたり、数え上げたらきりがないので割愛する。
彼女の言葉は私の地雷を的確に踏み抜き、傷を正確に抉るのだ。言われた時には何とも思わないのに、時間が経つとじくじくと痛みだし、傷がじわじわ炙り出しをされたように熱を持ちやがて耐え難い痛みになる。
散々言ってきたが彼女のことは好きだ。同じ趣味を持ち、何度も何度も遊びに行ったり、辛いことがあったらそっとそばにいてくれる。そんな彼女が大好きなのだ。
それでも、無神経なところだけは嫌いだ。
身の回りにも無神経な人間が多いからそのうち気にならなくなる。そう自分に言い聞かせてきたが限界である。彼女の無神経な言動が怖い。学校に行ったらまた傷つく。傷つくのが怖い。
今、私は学校に行くことに恐怖を感じている。